東京地方裁判所 昭和52年(タ)477号 判決
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【判旨】(関係人仮名)
被告補助参加人は、原告が本件離婚を追認した旨主張しているところ、原告主張のように、要式性を理由として、協議離婚の追認は本来許されないものと解すべきではなく、協議離婚についても、それが離婚意思の不存在により無効であつた場合、追認の意思表示をなすことにより、右離婚を有効なものとなすことが可能であると解するのが相当であるから、右追認の有無につき判断する。
<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。
1 亡三郎(大正八年三月一九日生)は、昭和一六年、東京のミルクホールを客として訪れた際、同店の手伝いをしていた原告(大正七年一一月一八日生)と知り合い、右両名は、その後交際を続け、昭和一八年二月には同棲するに至り、昭和一九年四月一九日長女花子を、昭和二一年一月二八日長男洋一をそれぞれもうけた。
2 他方、亡三郎は、昭和一六年二月八日に同人の実兄山田二郎と被告補助参加人の実姉野々山サチ子とが結婚したことから、被告補助参加人(大正一五年五月二日生)と知り合い、右両名はその後交際を続け、昭和二一年一月、東京日本橋に新居を構えて同棲するに至り、昭和二一年一一月二七日長男正雄をもうけた。
3 原告は長男洋一(第二子)を出産したころ、亡三郎が被告補助参加人と肉体関係を持ち、同女が妊娠するに至つていることを知り、亡三郎の実兄山田一郎の助言もあつて、昭和二一年一二月二四日、原告・亡三郎間の婚姻の届出をなした。そして、亡三郎は、同日かねて昭和一九年六月四日母である原告がその出生届をなしていた長女花子につき認知をするとともに、長男洋一につき父としてその出生届をなした。
4 これに対して、昭和二二年ごろたまたま亡三郎につき原告との婚姻届がなされていることを知つた被告補助参加人及びその姉山田サチ子(旧姓野々山)は、亡三郎に対して、責任をとるよう強く求め、亡三郎は、原告と被告補助参加人の板挾みとなつて苦悶していたところ、昭和二二年四月一五日、ついに被告補助参加人の長男洋一につき、父として出生届をなし、同年四月一七日原告に無断で同女との協議離婚届を作成し、ことさら郷里の山口県柳井市に赴き、右届出を済ませて本件離婚をなし、次いで同年六月二〇日には、被告補助参加人との婚姻の届出をなした。
5 その後、亡三郎は、被告補助参加人と協力して事業を営み、家庭生活においても昭和二四年一月二一日に同女との間に長女光子をもうけるなど比較的安定した毎日を過ごしていたが、他方、原告にも生活費を渡し、同女との情交関係も続けていた。
6 まもなく原告も妊娠するに至り、これを知つた被告補助参加人及びその意を受けた亡三郎が強く中絶を求め、原告も一旦はこれに同意したものの、結局は昭和二四年九月一九日二男正治を出産し、亡三郎も同年一一月一七日これを認知した。
7 しかし、亡三郎は、遅くとも原告が二男正治を出産するころから、原告方に泊ることが稀となり、被告補助参加人方において主として生活し、ときおり昼間原告方を訪れるという状態になつた。もつとも、亡三郎は、その住民票上並びに米穀通帳上の住所を昭和二九年ころまで原告方に置いていたものの、実際には、被告補助参加人と同居し、昭和二五年一〇月二六日同女との間に二男忠彦をもうける一方、同女と協力して事業を経営した。
8 他方、原告は、昭和二四年八月ころ、戸籍上本件離婚がなされた事実を知り、亡三郎に対し一旦は抗議したものの、同人の機嫌を損じて生活費の支給を中止されることを恐れたなどの事情により戸籍訂正のための手続等は一切実行しないまま推移し、その後は旧姓の加藤姓を名乗り、正治につき亡三郎の認知を求め、同人の金銭面に一切関与せず、専ら亡三郎からの生活費の支給に頼る生活が昭和五二年六月一五日同人が死亡するまで続いた。
以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、本件離婚は、原告の届出意思はもとより離婚意思も存在しないままその届出がなされたものの、その後、亡三郎において、被告補助参加人と婚姻届をして同女と夫婦として同居生活をおくり、他方、原告とは遅くとも昭和二五年ごろ以降事実上も夫婦としての生活は営まず、ただ、原告母子の生活費を支給する関係に定着していたものであり、実質的には、法律上の婚姻関係の解消を目的とする離婚同様の事実状態が形成され、かつ、これが亡三郎の死亡に至るまで継続したものと認められるし、また、原告も、昭和二四年八月ころ本件離婚の届出がなされていることを知りながら、前記認定のような事実経過をたどりながら何ら右離婚の戸籍訂正方法を講じなかつた等の事実を総合勘案すれば、遅くとも、亡三郎が原告との間の二男正治につき認知をなした昭和二四年一一月一七日ころまでには、原告において、本件離婚につき、追認をなしたものと認めるのが相当である。よつて抗弁2は理由がある。
(牧山市治 古川行男 池田光宏)